起立性調節障害(OD)について
起立性調節障害はOD(orthostatic dysregulation)と呼ばれ、中学生の10%程度と見積もられる頻度の高い疾患です。さまざまな要因によって、自律神経の機能障害が起こり、主に脳の循環血液量が減少することで、以下のような症状を伴います。ひどいと登校、さらには日常生活も難しくなり、心身の成長発達や学習面・社会生活・精神面にも多大な影響を及ぼす可能性があります。もちろんODの背景には、さまざまな心理社会的な要因が関与していることは少なくなく、心理的・行動的な治療が欠かせません。しかし大切な点は、ODは身体の病気であることをまずは理解することです。一見して怠けているなどと誤解され、頑張ることを強要されたり、心理的に追い込まれたりすることが少なくありません。こころや気力だけの問題ではないこと、体がつらいことで最も困っているのは本人であることを周りがよく理解した上で、適切な支援を継続することが重要です。
起立性調節障害(OD)の身体症状について
小児起立性調節障害・治療ガイドライン(日本小児心身医学会)では、以下の11項目が挙げられています。特に3つ以上該当する場合は、ODを考慮して検査を行い診断していきます。
- 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
- 立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる
- 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸あるいは息切れがする
- 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 臍疝痛をときどき訴える
- 倦怠あるいは疲れやすい
- 頭痛
- 乗り物に酔いやすい
起立性調節障害(OD)の診断について
症状からODが疑われた場合、身体の診察や検査を行い、ほかに基礎疾患がないことを確認します。特にODのタイプを決定する「新起立試験」と呼ばれる検査は大切です。これはしばらく横になった状態を維持した後に立ち上がり、しばらく立ち続けて、その間の血圧や心拍、心電図などを確認していく検査です。この検査の結果から、ODには基本的に以下の4つタイプに分類します(近年では新しいタイプも追加されています)。ここではこれらの細かい説明は省きますが、それぞれ治療や対応が異なってきます。
- 起立直後性低血圧(INOHと呼ばれます)
- 体位性頻脈症候群(POTSと呼ばれます)
- 血管迷走神経性失神
- 遷延性起立性低血圧
起立性調節障害(OD)の治療について
脳の循環血液量不足、自律神経機能障害を軽減していくことが身体治療の基本になります。このためにまず、生活指導、次に薬物治療を追加し、必要に応じて心理・行動面でのアプローチも併用していきます。
生活指導
以下が基本となりますが、これらを一気にやろうとしても到底できるものではありません。個別に可能な範囲で具体的目標をたてながら、一歩ずつ進んでいきましょう。
起立はゆっくり時間をかけて段階的に
横になった状態や座った状態から急に立ち上がると、当然、脳貧血の度合いが強くなります。数十秒かけて段階的に、頭を低くしながら、足、上体、最後に頭を起こす、といった手順で立ちあがるようにしてください。また立っているときはじっとせず、足を交叉させたり、足踏みしたりするとよいでしょう。
日中はなるべく起きて活動する
デコンディショニングと言って、日中動かずに横になってばかりいると、症状は悪化するばかりか、治りも遅くしてしまいます。倦怠感が強くても、無理しない範囲でなるべく起きて過ごすようにしましょう。
生活リズムを整える
十分な睡眠時間と睡眠リズム、つまり早起き、早寝を心がけましょう。睡眠は自律神経を整える基本中の基本です。
暑さには注意
気温が高いと末梢血管を拡張させ、発汗による脱水もあり、症状が悪化します。
運動
特に朝夕と数十分程度の散歩がおすすめです。
食事・水分
塩分の多い食事(1日10〜12gを目安)、水分(1日1.5〜2リットル、1時間に1回コップ一杯の水)摂ることが勧められていますが、簡単ではありません。ODを持つお子さんは、塩辛さが苦手で、水分をとるとお腹がつらくなります。なので、1時間ごとの水分をコップに1/3杯など、できる範囲で少なめに始めてみましょう。
薬物治療
メトリジンと呼ばれる、血圧を上げるための薬が基本です。タイプや症状によって、投与量や内服タイミングを調節します。内服後は効果を実感しにくいと思いますが、上記の生活での注意点とともに、しっかりと継続していくことが早くよくする上では欠かせません。さらに必要な場合には、心拍を調節する薬や漢方薬などを追加することがあります。
心理・行動的アプローチ
ODは身体の病気であることは、すでに述べた通りです。しかし、その背景に、本人の発達特性や心理的葛藤、ストレス、家庭・学校環境、人間関係といった要素が多分に関わっていることは少なくありません。日曜の夜や月曜の朝になると症状が悪化し、週末はよくなるといったパターンはよく見られます。からと言って本人が無理に頑張ればよくなるものでもありません。心理や環境のストレスは、誰でも自律神経機能に影響します。自律神経の調節能力が不足しているODでは、ちょっとしたストレスで強い身体症状が出るのは当然のことです。ですので、ODは心と体のどちらが原因と言えるものではなく、さまざまな要因が複雑に絡みあった結果であり、身体症状の治療とともに、心理・行動面からの治療・支援や、家庭・学校への教育・環境調整といった、複合的なアプローチが大切です。
ODは風邪のように1〜2週間治療を頑張れば治る、といったものではなく、少なくとも年単位の治療が必要になることが稀ではありません。したがって、単に本人に頑張るよう強要して、短期間それができたとしても、決してうまくいくことはありません。医師、心理士、家庭、教育機関など、協力して支援していくことが重要です。当院では症状の評価や新起立試験を始めとした検査、生活指導、投薬治療や心理サポートなど行なっておりますので、お困りの際はご相談ください。