- 「てんかん」とは?
- てんかんの頻度
- 「てんかん発作」って何?
- てんかん発作の症状
- てんかん発作に似て非なるもの
- てんかんの診断
- てんかんの検査
- てんかんの治療
- 急性期治療について
- てんかん発作を目撃したら
- てんかん発作を止めることはできる?
「てんかん」とは?
てんかんについて
①「てんかん発作」と呼ばれる、突然起こる一時的な症状(現象)を、②日常生活の中で特別な誘因がなくても(専門的には「非誘発性発作」と言います)、③長い間にわたって繰り返し起こす、あるいは繰り返し起こす危険性を伴う、脳の慢性疾患のことです。「慢性」とは少なくとも年単位以上続く状態です。てんかん発作を繰り返す危険性が小児期の数年間のみで落ち着いてくるものもあれば、生涯続くこともあります。つまり、てんかんは皆同じ状態ではなく、さまざまな原因や状況、脳の疾患が関わっています。なので、原因も症状も経過も治療も人によって大きく違ってきます。この複雑さが、てんかんは専門家が判断する必要性が高い疾患と言われる理由です。
小児のてんかんについて当院院長、日暮が解説した、東京慈恵会医科大学の動画がありますので、もしよろしければご覧ください。
てんかんは多い?子どもの場合は?
てんかんを持つ方は人口の約1%と見積もられています。これは脳の疾患では片頭痛や脳血管障害、認知症などに次ぐ頻度で、疫学的・社会的にも重要度の高い疾患です。お子さんでは約0.5%と見積もられていますが、全国的に正確な統計はでていません。てんかんが発症する年齢は子どもで最も多く、最近では高齢者でも多いことがわかってきています。ただ、どの年齢でも発症する可能性があり、生涯の罹患率(一生の間にてんかんを起こす率)は約3%と言われています。
「てんかん発作」って何ですか?
大脳には多くの神経細胞があります。通常は、それぞれが緻密に情報をやりとりして活動しています。しかし、何かの原因で、数多くの神経細胞が(緻密さを欠き)同調して(同じリズム・タイミングで)活動し始めると、脳が強い興奮状態に陥り、その部分の脳の機能が一時的に強く症状として現れることとなります。これが「てんかん発作」です。やや混乱するかもしれませんが、これは「てんかん」という疾患だけに起こるわけではありません。赤ちゃんの「熱性けいれん(熱性発作)」は、熱という誘因がなければ起こらないため「てんかん」の状態には該当しませんが、起こっている現象は「てんかん発作」そのものです。脱水や低血糖など体のバランスの破綻や、脳卒中、脳の感染症といった急性疾患で引き起こされることもあります(専門的には「急性症候性発作」と言います)。なので、てんかん発作が起きたから、すぐにてんかんというわけではなく、それを起こしている緊急の原因を確認することが大切です。
てんかん発作はどのような症状を起こしますか?
てんかん発作と聞くと、体を突っ張らせたり反らせたり、ガクガクさせたりする状況を思い浮かべるかもしれません。もちろん重要な症状ですが、症状は原因となる脳の場所や、脳の興奮のパターンなどによってさまざまです。体がガクガクすることもあれば、ビクッと一瞬動いて終わりだったり、動きは目立たなくてもぼーっとしたり、何かが見えたりするだけのこともあります。てんかんの症状は非常に多彩で、下に一部の例を挙げますが、ここでは書き尽くせません。また、判断も症状に精通した医師がする必要があります。ですので(発作を起こした方の安全確保が最優先ですが)、よく症状をみて、あるいは動画に撮って、細かく医師に伝えてもらい、判断することが不可欠です。
代表的なてんかん発作の症状の例(括弧内は専門的な用語)
運動症状がメイン
- 全身や体の一部を硬直させる(強直)
- ガクッガクッとリズミカルに体を動かす(間代)
- ビクッと一瞬体を動かす(ミオクロニー、てんかん性スパズム)
- ガクンと脱力する(脱力、陰性ミオクローヌス)
- 口をもぐもぐさせる、手足をモゾモゾさせる(自動症)
- 目や頭を横の方に向ける(眼球偏位、偏向)
など
運動症状以外がメイン
- 手足がしびれたり、痛かったり、チクチクした感覚がある(体性感覚症状)
- 胃が込み上げるような感じ、よだれが出る、顔色が紫色になる(チアノーゼ)、嘔吐する(自律神経症状)
- 怖い、叫ぶ、笑い(感情・情動症状)
- 虹色の円が見える(視覚症状)
- 何かが聞こえる(聴覚症状)
- ことばが出ない・理解できない(認知症状)
など
てんかん発作に似ているけど、実は違うことってありますか?
てんかん発作と間違えられる動きは大変多いです。よくあるのは、小さいお子さんだと顔や腕をブルブルッとさせたる身震い発作と呼ばれる動きがあります。また、脳貧血が強くなって気を失ってしまう失神では、けいれんのような症状が出ることが非常に多いです。失神はよくみられる症状ですが、重篤な心臓病(不整脈など)が関与することもあるので注意が必要です。乳幼児期の泣き入りひきつけ(憤怒けいれん)などもその仲間です。高熱が出る時の体の震え(悪寒(おかん))もけいれんと間違えられやすい症状です。心理的な葛藤でてんかん発作のような症状を起こすこともあります。他にもいろいろあって、特にお子さんの場合は気になる動きや症状は多彩ですが、このような症状を見分けるのもてんかん専門医の出番です。
てんかんはどのように診断するのでしょうか?
てんかんの診断は、症状や経過、起こっている状況など細かく分析して判断します。また、てんかんと診断されたからすぐに治療を、というわけにはいきません。てんかんは世界中で次の5つの要素をしっかり評価しましょう、と推奨されています。それは①てんかん発作のタイプ、②てんかんという疾患のタイプ、③てんかん症候群、④てんかんの原因(病因)、⑤併存症(てんかん発作以外の症状から、生活での困りごとなどまで)、の5つです。なぜこれらが大切かというと、これらの評価が不正確であれば誤った治療や対応につながり、てんかんを持つ方にとって不利益となりうるからです。逆に言えば、正しく評価ができれば、より適切な望ましい治療や対応ができる可能性が高くなります。
てんかんの検査にはどのようなものがありますか?
代表的な検査は以下のものがあります。これら以外にも当然さらに精査を行う必要がある場合もあります。詳細は医師とご相談ください。
脳波検査
大脳の活動特性を確認する検査です。てんかんの細かい診断には非常に大切な検査です。ただし、異常があるからてんかん、正常だからてんかんではない、といった単純なものではありません。当院で実施しておりますので、詳細は脳波検査のページを参照ください。てんかんの状態によっては、連携医療機関に入院の上、長時間の記録が必要になることがあります。
頭部画像検査(MRI、CTなど)
てんかんと診断された全員に必要なわけではありませんが、てんかんの原因を探るのに非常に重要です。例えば大脳に構造的な問題あって起こっているてんかんでは不可欠な検査です。当院では実施できませんが、必要な場合は連携医療機関に紹介致します。
採血・尿検査
てんかんの一部には、例えば代謝異常といって、採血や尿検査に異常がでるものもあります。また、薬による治療を行っている場合には、薬の副作用や体の中の濃度を確認するためにも不可欠な検査です。
遺伝学的検査
遺伝子の検査です。最近は遺伝子の解析する技術が目まぐるしく進歩していて、てんかんの原因となる遺伝子の異常が次々と明らかになっています。一部のてんかんでは、遺伝子をチェックすることで診断できるものも出てきています。当院で実施できるものもありますが、より高度な検査(網羅的遺伝子解析など)をする場合には、連携医療機関にて実施をお願いすることがあります。
てんかんはどのように治療しますか?
てんかんの治療は、大きく分けて、てんかん発作を予防するための治療(予防治療)と、てんかん発作が止まらない場合に止めるための治療(急性期治療)とがあります。
予防治療について
不意にてんかん発作が起こると、怪我や事故などの原因になりますので、安心して生活を送るためには、できる限り予防していくことが大切です。もちろんてんかん発作は身体的に危険なものだけではありませんが、いつ発作が起きるかわからない怖さや、人前に出ることへの不安などの心理的影響もあります。また、治療の目的は発作予防だけではありません。てんかんを起こす背景にある脳の働きの変化が、正常な脳の働きにもいろいろ影響することがわかっています。このように予防治療には、てんかんをお持ちの方それぞれにあった目的と戦略、目標設定をしていくことが大切です。てんかんを予防するための治療には以下のようなものがあります。
薬物治療
抗てんかん発作薬(ASM, anti-seizure medication)と呼ばれる薬を普段から内服することで、発作を予防します。今は日本で25種類ほど使えますし、これら以外の特殊な薬を使うこともあります(ビタミン、ホルモン、免疫に作用する薬など)。これらの薬はそれぞれ効き方(作用機序)や、効きやすい発作のタイプ・症状、副作用などが違います。つまり得意分野と不得意分野とがあります。また、時にてんかんを悪化させることさえあり、いくつかの薬を組み合わせて使ったときに、違いに影響し合うものもあります。風邪薬と違って年単位で続ける薬になりますので、それぞれの薬をよく理解したてんかん専門医が治療を考え、調整していくことが大切です。
外科治療
薬は進歩していますが、発作が完全に予防できるのは残念ながら6~7割の方にとどまります。発作が抑制し切れない場合、てんかんの原因となっている脳の部分を取り除いたり、発作活動が脳の中で広がっていくルートの途中を遮断したりする外科治療を行うことがあります。最近では、脳深部刺激療法(DBS、deep brain stimulation)と呼ばれる手術が、日本でもてんかんに対して認可されました。脳を電気的に刺激することでてんかんを起こす脳機能変化を調整する治療です。このように、外科の技術はどんどん進歩していて、外科治療で治るてんかんも増えています。手術はもちろん不安だとは思いますが、まずはそれができるかの検査をする必要がありますので、必要な場合は早めに考えていく必要があります。特に小さいお子さんでは、遅くなると発達にも多大な影響を残すものもありますので、専門医が適切な時期に評価するかを判断することが大切です。
迷走神経刺激療法
左の頸動脈の周囲にある迷走神経、とよばれる神経を電気的に刺激する治療です。頚部に電極(ワイヤー)を、胸の皮膚の下に電気発生装置を設置する手術が必要ですが、脳の手術は必要ありません。なぜ有効かはまだわかっていないことが多いですが、日常的に電気刺激をすることで、数ヶ月から、時に数年かけて徐々に発作が減っていく可能性があります。電気刺激は外来で調整していきます。当院では今後、対応できるよう準備していく予定です。
食事療法(ケトン食療法)
簡単に言えば、炭水化物の代わりに脂質をメインの栄養源とする治療です。最近は健康ブームや、糖尿病やがんの治療などでも行われることがあり、聞いたことがある方も多いかもしれません。ただ、これは気軽に行う治療ではありません。ご本人やご家族への負担も大きく、副作用もあるため、治療に精通した栄養士さんからのこまめな指導と、定期的に医師が状況をチェックしていく必要があります。ただ、ケトン食療法が有効なてんかんも少なくなく、一部ではこの治療が絶対に必要、というてんかんもあります。特に小さいお子さんで必要な場合、開始時に数週程度、入院が必要になりますので、必要な場合は専門医療機関と連携して行います。
急性期治療について
てんかん発作は、起きたとしても数分以内には自然に止まることがほとんどです。ただ、発作の原因や状況によっては、自然に止まらない場合があるのも事実です。このような場合、ゆすったり声掛けしても止まるものではなく、基本は病院で静脈内に注射する薬を使って止める必要があります。特に下記のような状況があれば、救急車を呼んで病院へ受診して頂く必要があります。
- 体をこわばらせたりガクガクさせるような「けいれん」が5分たっても止まらないと
- 体の動きは軽かったり目立たなかったとしても、発作が10分たっても止まらないと
- てんかん発作が終わったように見えても、意識が回復せず繰り返すときや、反応や状況がもとの状態にもどらないとき
これ以外にも注意すべき状況はあります。てんかんをお持ちの方それぞれ注意点も異なります。何でも救急車を呼ぶ必要はありませんが、ご不安で判断が難しい場合は遠慮なく呼んでください。ただ、発作が止まり、顔色や呼吸、反応などが戻っていれば、救急車を使わずに病院に来て頂いて大丈夫です。
てんかん発作(けいれん)を起こしたら、周りの人は何をしてあげたらよいですか?
目の前で発作を起こした人をみたら、もちろん怖いと思います。ただ、大抵の発作は自然に止まり、命の危険に晒されることはありません。なので、まず大切なのは焦らないこと、そして、その方の身の安全確保とよく見守ることです。外から揺すっても発作は止まりませんし、指やタオルなど口に入れてはいけません。周りに家具や倒れてくるものがない(あればどかして)、ある程度スペースのある平らな場所に寝かせ、頭の後ろにタオルや枕などのやわらかいものを置いてあげるとよいでしょう。メガネやシャツの上部のボタン、ベルトなどは取ったり緩めたりしてあげてください。時間を測り、目や顔の向きや顔色、体の動きを観察します。余裕があれば動画撮影をしておくと診察時に役立ちます。けいれん中は息ができず顔色が悪くても脳はすぐには酸欠状態になりません。通常数分以内に止まります。その際、息をしやすいように、また吐いた場合にそれを吸い込むことを防ぐため、顔と体が真横〜やや下向きとなるくらいの完全な側臥位をとらせるといいでしょう。その後、呼びかけながら呼吸と意識の回復を促し、状態が回復するまで見届けます。発作後に受診するかは、その方の状況によります。もちろん初めての発作であれば、原因を見分けるため受診が必要です。熱性けいれんやてんかん以外にも、色々な脳や体の病気が潜んでいる可能性があります。ただし状態が戻っていれば救急車の必要はなく、夜間の熱性けいれんであれば翌朝の受診でも良いでしょう。一方、すでにてんかんをお持ちの方で、いつも起こすような発作があった場合、その後落ち着くことがわかっていれば、そのまま自宅で過ごして頂いて問題ありません。
てんかん発作が続く時、発作を止めるために病院に来る前にできることはありませんか?
最近まで、日本ではダイアップ坐薬と呼ばれる薬を発作が起きた時に使う習慣がありました。ダイアップ坐薬はジアゼパムと呼ばれる成分で、けいれんがあったときに病院で最初に静脈注射する薬の一つです。ただ、この坐薬はお尻から入れても、けいれんを止めることができるレベルまで吸収されるのに30~60分はかかると言われています。なので、今起きている発作を止める効果はあまり期待できません。そこで最近、「ブコラム」と呼ばれる薬が日本でも使えるようになりました。これはミダゾラムと呼ばれる成分が注射器のピストン(シリンジ)の中に入っている薬で、発作が続いたときに口腔内(頬の粘膜)に投与することで、数分程度で発作を抑制する効果を発揮することが期待されます。もちろん効かない場合もあり、呼吸が弱くなったりなどの副作用の可能性もありますので、必ず医師と必要性や注意点、使うべき状況を確認しておくことが大切です。また、使う場合にはいつでも救急車を呼べるよう準備をお願いします。使い方については下記の動画をご確認ください(武田薬品株式会社HP内)。