お子さんの発達・行動・こころに関する相談
親御さんにとって、子育てに関する疑問や不安が無くなることはありません。特に周りの子と比べて発達が遅い、気になる行動や困った行動がある、情緒的・精神的に不安定、などの悩みは非常に多く、むしろあって当然でもあります。発達の遅れはもちろん身体の病気のサインであることもありますので、気になることがあれば是非早く受診してください。必要であれば高度医療機関と連携して検査を進めていきます。一方で、身体の病気が無くとも、お子さんの発達の進み具合や脳機能のバランス、発達・行動面の特性は皆大きく違います。信頼できる情報源であれば、育児書やネットなどで平均的な発達の目安を学ぶのは大切ですが、それができていないからといって、お子さんにできるよう強要することは確実に間違った対応です。このような問題は、お子さんだけの要因では決してなく、お子さんの発達特性や関心事、困っていることなどを周りがよく理解していないために、適切な対応や環境調整ができていないことが原因となっていることが多いようです。逆に、特に真剣に考えすぎた場合、多くの情報を学べば学ぶほどあれもこれもやらないといけないと焦り、疲労や不安がさらに増していくこともあると思います。是非、客観的に関わることができるわれわれ医療チームをパートナーに加えて頂き、お子さんやご家族にとってより良い対応について一緒に考えていきましょう。なお、当院ではお子さんの発達・心理の評価・対応に熟練した心理士が必要に応じて関わらせて頂きます。
お子さんの発達や行動で気になることはありますか?
以下はよくある相談のきっかけの例です。もちろん状況はさまざまで、年齢によっても大きく変わってきますので、この限りではありません。問題が小さい場合はつい様子を見てしまったり、無理にやめさせようとしたりしてしまうことも少なくありませんが、やりすぎると問題を大きくしてしまう可能性もあります。どのようなお悩みでも結構ですので、できれば頑張りすぎる前にお気軽にご相談ください。
- 目を合わせない
- あまり笑わない
- 言葉がでない
- 言葉や指示を理解できない
- 坐ったり歩いたりできるようにならない
- 刺激に過敏
- かんしゃくが強い
- 睡眠の問題(寝付きが悪い、夜泣きが多き、夜中に何度も目覚めてしまう、など)
- 集団に馴染めない
- 落ち着きがなくいつもそわそわしている
- 集中力がなく、注意散漫
- 忘れ物や無くし物が多い
- 人に暴力をふってしまう
- 運動が苦手
- 周囲に馴染めない
- 登園や登校しぶりが多い
- 不登校、引きこもり
- 朝起きれない
- 頭痛や腹痛、体の痛みをよく訴える
- 立ちくらみが多い
- こちらの指示をよく理解しない
- 集団行動が苦手
- 突発的・衝動的な行動が多い
- 生活習慣が身につかない
- 社会的ルールが身につかない
- 自己主張が強い
- 音や触感、匂いに過敏
- おとなしくしていられない
- まばたきが多い
- 顔をしかめる仕草が多い
- 汚い言葉をよく発する
- 明け方によく目覚めてしまう
- 食欲不振に陥る
- 過食が多い
- 感情の起伏が激しい
- 何事にも興味を示さない
- 何事にも意欲が湧かない
- イライラしていることが多い
など
発達特性に対して診断は必要?
お子さんの発達や行動のお悩みで相談された場合、診断名が気になる親御さんは多いと思います。例えば学習について行くことが難しくて知能検査を受けたけれど、明確な遅れはなくグレーゾーンと言われたり、皆に馴染めず言動が独特だったり、落ち着きがなく忘れ物が多いけれど、この子の特性や個性と言われるに留まったりすることは少なくありません。たしかに支援が必要なのに診断がないのはおかしいと疑問に思われるかもしれません。また、もちろん診断名があれば、気持ちの整理がついたり、それに関する情報を集めたり、教育や社会福祉面での支援を受けやすくなったりなどメリットも多いと思います。ただ、同じ診断名のついたお子さん同士でも状況は大きく違います。また、幼少期に落ち着きがない、かんしゃくが強い、言葉を話さない、人に関心がない、などの症状があって神経発達症のいずれかの診断をされたとしても、お子さんへの接し方を変えることで次第に改善し、その診断に該当しなくなるお子さんが多いのも事実です。診断に対する考え方は専門の医師の間でも温度差が大きいものです。いずれにしても最も大切なのは、お子さんそれぞれの特性を理解し、それぞれに適した対応を学び実践していくことです。もちろん診断を含め気になる方は遠慮なく医師に聞いてみてください。
神経発達症(発達障害)とは
さまざまな原因により脳の発達のプロセスが平均的なパターンと異なることで、認知、行動面でのさまざまな特徴が現れる状態です。DSM-5と呼ばれるアメリカ精神医学会の診断分類によると、神経発達症には、知的能力障害(知的障害、以前は精神遅滞)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症、発達性協調運動症などが含まれます。体質的な要因や、さまざまな脳神経疾患(てんかんや早産、脳の形成の問題など)が原因となりますが、決して育て方が悪いだけで発症するものではありません。一方、幼少期のお子さんへの関わり方によっては、それに類似した発達特徴がみられることはあります。いずれにしても大切なことは、幼少期からお子さんへのより良い関わりについて学び実践すること、必要に応じてそれぞれの特性に適した関わり方や訓練を行うこと、教育の場も含めた環境調整することなどによって、お子さんの心理的・精神的な負担を和らげ、可能性を広げていくことが期待されます。
自閉スペクトラム症(ASD)
「ASD(Autism Spectrum Disorder)」と呼ばれています。他の人とのコミュニケーションが難しい、相手の気持ちを理解するのに困難がある、興味対象が全体像より細部などに限局している、興味対象やあり方へのこだわりが強い、といった特徴があります。幼少期には目が合わない、表情が乏しい、指差しをしない、発語が遅い、あるいは独特のことばを使う、他児に関心がない、こだわり・かんしゃくが顕著、偏食が強い、独特の遊び方を続ける、喜びの共有が乏しい、などでの相談が多いです。
注意欠如・多動症(ADHD)
「ADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)」と呼ばれています。は、その年齢で期待される状態に比べて、注意や集中が持続しない(注意欠如)、落ち着きがなくじっとしたり、待つことができない、常に動いている(多動性)、思いつきで行動してしまったり、手が出てしまったりする(衝動性)といった特徴があります。お子さんによって全ての要素がある場合もあれば、注意欠如、あるいは多動性・衝動性のいずれかが優勢な場合もあります。ADHDに対しては必要な場合、お薬による治療が有効なことがあり、現在、コンサータ、ビバンセ、インチュニブ、ストラテラという4つのお薬が利用できます。コンサータ・ビバンセは登録医による処方が必要で、当院で処方できます。
限局性学習症(または学習障害)(SLD)
「SLD(Specific Learning Disorder)」と呼ばれます。知的発達などに問題はないけれど、書き、読み書き、計算といった特定の機能に限局して困難があり、努力しても学習効果があがらない特徴があります。
二次障害・精神疾患
発達特性をもつお子さんでは、成長とともに周囲との関係性の問題や、社会適応における違和感などから、徐々に心理面・精神面での負担を強く感じるようになることは少なくありません。そのような負担が大きくなると、自尊感情が低下したり、不登校やひきこもりの状態に至ったり、うつや不安障害といった精神疾患を併発するなどして、日常生活を送ることが困難となる場合があります。このように二次的に心理的・精神的負担が生じた状態が「二次障害」と呼ばれています。幼少期からお子さんの発達特性を理解し、適した関わりや環境調整を行いながら二次障害を予防することは重要ですが、二次障害を併発してしまった場合にも、より早く正しく状況を理解し、適切な関わりや環境調整をしていくことが欠かせません。無理に頑張らせたりするのではなく、まずは相談にいらしてください。
うつ病
大人だけでなく子どもでも稀ではありいません。お子さんはしばしば、自身の感情を客観的に理解し、それを他者と共有することが苦手なので、周囲がそれをうまく理解してあげられないことが少なくありません。そのような場合、心理的葛藤やストレスをうまく発散することが困難です。学校に行きたくない、食欲がない、眠れない、イライラするといった変化は、うつ病のサインのことがあります。
強迫性障害
特定の考えに固執してしまい、その考えから生ずる不安を解消するために、何度も同じ行動を繰り返してしまう状態です。例えば、手を洗っても手が汚れていると感じて何度も手を洗いに行く、鍵を閉めて自宅を出てきたが、鍵を閉め忘れたのではという不安が強くなり、何度も確認しに家に戻ってしまう、物の配置に違和感を覚えて何度も移動させたくなる、などが代表的ですが状況はさまざまです。自分でもその行為自体が無意味であることは理解できていても、やめることができず、生活に支障が出ます。
不登校・引きこもり
不登校は「(体の)病気や経済的事情などのやむを得ない理由以外によって、年間で30日以上、学校に行かない、または行きたくても行けない状態」と定義されています(文部科学省)。しかし、あくまでも社会的な定義であり、それ未満であれば大丈夫、というわけではありません。不登校の背景にはさまざまな要因があります。お子さんによって学校に行けない、行きにくい、行かない状態に至った経緯を正しく理解した上で、個々にあった対応を考えていく必要があります。焦って、無理に登校を促すことは絶対に避けるべきで、表面上、再度登校できるようになることだけを目標としてはいけません。発達特性や心理・精神的問題、あるいは起立性調節障害などの身体的問題が背景にある場合もあります。登校しぶりや困難感を認めた場合には、早めにご相談ください。